よくわかる[要出典]『へうげもの』と日本美学

社会人向け雑誌『モーニング』に、二週に一度『へうげもの』って漫画が載ってるんですよ。
これ、古田織部という日本美学の中で「ひょうきん・娯楽」を担当した人の目から、ある種日本美学の激動期だった安土桃山江戸前期時代を語る、という漫画なんです。
(以下、大いにネタバレします。注意)


純化のために書きますと、古田織部のかつての上司は織田信長でした。
信長は「華美」と権威の関係について極めて意識的でして、ガンガン華美なものを集めて、その物欲で皆を言いなりにしてきた人でした。
しかし、華美より「わびさび」が好きな、織部の師匠にして筆頭茶頭・千利休がいまして、彼は自分の美学のために、「端正・清潔」が好きな明智光秀と、特に美学を持たないが出世欲と人間力のある秀吉を使って、信長を殺害させます。
政権を握った光秀は、信長の安土城を白く塗りつぶします。黒が大好きな利休は「明智様もまだまだお若いようで」と抜かしやがりますが、内心(うっかりうっとりしてしまった)と悔しがります。
光秀を秀吉に殺させた後(この趣味人は美意識で人を殺し過ぎる)、秀吉と利休はどんどん不和になっていき、その中で利休は様々な挫折と共に「わびわび」をどんどん深化していって、虚無的威圧感のある黒と暗室から、日常的生活感のある赤と明室にシフトしていきます。
びわびの概念は難しいのでよく分かりませんが、「日常的生活感の静けさ穏やかさ」を突き詰めたらああなっちゃったんじゃないかな。
利休が処刑され、秀吉が生き残った世で、華美と平穏を同時に知る秀吉はどんどん孤独になっていきますが、その孤独を知る織部は、秀吉の死に際をある方法で飾ります。秀吉はこれによって救われ、開眼します。「ようやく信長公に『楽』の一点で勝ったわ」と。そして、織部の本質を「楽しい」であると見抜き、それが今までの美意識者たちをも超える可能性のある力であると伝え、死んでいくのでした。


その後の古田織部の活躍については語りません。面白い漫画家は面白い世界を描くよなあ。


以上、まとめると。
織田信長:「華美・権威」
明智光秀:「端正・清潔・正義」
千利休:「日常・生活・静けさ・穏やかさ」
古田織部:「楽・楽しい・ひょうきん」
となります。


実はこれ以前に教養の魔人・細川幽斎や、若き美意識の上田宗箇・小堀遠州などがいるのですが、それはまた後で調べます。多分面白い。
あとはやはり古い「あはれ」「をかし」「幽玄」や、新しい「きれいさび」「しをり・細み・軽み」も追及していきてえなあ。
それが日本恋愛学の中興の祖・九鬼周造の「好かれたい! (媚態)」「付き合ってももたれかからない! (意気地)」「別れてもウジウジしない! (諦め)」で出来た「いき(粋)」という美学になるのだし。
または野暮であることをあえて飲み込んだ演歌にもなるのだろうし。
さらには「演歌じゃイヤだ、洋楽で対抗しよう」という細野晴臣のあがきにあがいた40年以上になるのだろうし。
そしてその極みが今……何だろうね。音楽で言うとチルウェーブ・グローファイ? これは世界的な傾向だけど。まあ何かそんな感じになるのである。
てんで、美意識にはヒトの何かすごい新しい世界が常に切り開かれて在るので、是非俺もそういう世界を見てみたい。のです。