【飛翔賞ばかばかしい部門】スプリングバレー・エクストリーム大祭

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 落ちる(http://q.hatena.ne.jp/1231366704)からには飛ばねばなるまい!
 劇中で「空を舞うシーン」の出てくるオリジナルの小説・漫画など創作物を募集します。
 

 と謳っていますが、「そんなことよりオレの歌を聴けえ!」と全く違うことをやっていただいてもかまいません。
 「空を舞う」ことに反逆して、地を這ってもいいですし、某アニメ巨匠を茶化しても結構です。回答者の裁量にお任せします。

 要は、なんであれ回答者が「おもしろい」と思う創作物を提示していただき、その結果わたくし、id:y2k000がおもしろいことです。

「空を舞うこと」を踏み台にして、まったくの自由に、創作の大空を羽ばたいてください。(これが言いたかったんや!

字数制限:200文字以上10000文字以内。
締め切り:18日12:00で募集を終了します。
質問者が最もおもしろがった作品には500p差し上げます。 

ということですので、書きました。


………


スプリングバレーでは奇妙な祭りが行われている。
若者が片側の崖から弾性の高い谷底に飛び降り、衝撃吸収性の高い対岸の崖へ飛び移る。
その時の跳躍の姿形が素晴らしかった者に、村一番の栄誉が与えられるというものだ。


「17番、行きます!」
今、一人の中肉中背の若者が、崖から飛び降りた。
くるくると後ろ向きに三回転し、谷底に背中からのめり込む。
谷底の地面がぐにゃりと沈み、ややあって激しく盛り上がる。
若者の体が地面に弾き返されて、空高く浮き上がった。
体をぴんと大の字に伸ばし、対岸の崖の上に腹から着地する。
ばすん、と柔らかい音を立てて、崖がわずかにたわむ。
「どうですか、今の演技は?」
「うん、いいですね。大の字に飛び移る様が、太陽に干された布団に飛び込む子供といった感じを思い起こさせますね」
審査員たちがつり橋の上から論評し、成績を手元のボードに書き込む。


「18番、行きます!」
別のやせた若者が崖から飛び降りる。
前傾45度の姿勢で背筋を伸ばしたまま、地面に激突する。
谷底が若者を弾き返す。しかし、若者の体は対岸に届かず、再び谷底へと吸い込まれていった。
「あーっと、目測を見誤ったか?」
「これは失敗ですねー」
若者の体がぐにょんぐにょんと小さく谷底に弾き返される。若者は見苦しく空中で手足をじたばたさせていた。


「では、19番、行きます!」
筋肉質の若者が崖から飛び降りる。
頭から谷底に向かって直立不動でまっさかさまに飛び込む。
「おっ?」
審査員の一人が小さく声を上げた。若者が着地寸前、そっと手を伸ばしていたのを見逃さなかったのだ。
若者の体が宙高く舞い上がる。さっきの反動を活かして、若者はくるくると回転していた。
3、5、7、10。
そして若者が対岸の崖に、うまく足から着地した。
ずん、と小さな衝撃が崖に走り、若者の体が手を広げたままTの字で固定される。
「おおー! これは得点高い!」
「素晴らしいですねー。これは今年の優勝は決まったか?」
審査員たちが騒いだ。若者はほくそ笑んだ。自分の勝利を信じて疑わない顔だった。


「最終番号、20番、行きます!」
最後の若者が崖から飛び降りた。
一際目方のありそうなその若者は、その体重からは予想もつかないほど高く飛びあがり、次の瞬間谷底に消えていた。
谷底が歪む。歪む。大きく歪む。
「ん?」
審査員たちがどよめいた。一向に若者の体が跳ね上がってこない。
谷底は円錐状に尖っていき、やがて先端が見えなくなった。
「……」
審査員たちが息を飲む中、谷底から怒号が響いてきた。
怒号はどんどん大きくなり、谷底が次第に形を崩していく。
やがて、石を落とした水面のように、若者の体が大きく跳ね返された。
「おおっ!」
若者の体が大空に吸い込まれていく。それは一筋の星になり、空を穿ち、やがて見えなくなった。


そして、若者は、いつまでも、帰って来なかった。


その年のスプリングバレー・エクストリーム大祭の優勝者は19番に決まった。
空に飛んだまま戻ってこなかった20番には特別賞が与えられ、その飛び様は伝説として村で永遠に称えられることとなった。
「いやー、やっぱり、真の優勝は彼だと思いますよ」
19番の発言である。


隣村の粘性の高い湖に、20番が無事着水したのは、それから3年後のことである。