バカ超短編

収容所で首を折られかけた時の音を、今でも覚えている。
ごきり、とも、ぼきり、ともつかない、乾いたような濁ったような音。
そこから先のことは覚えていない。曲がっていたのは奴の首で、
倒れていたのは奴の方だった。腕に、生々しい体温と血圧の跡があった。


収容所からどうにか出た後、殺しを生業に始めた。
首の折れる音は、人それぞれに違った。硬さも、折れる角度も。
技を極めるために関節技も学んだ。殺しはどんどん洗練されていき、
やがて生活するには十分以上の金が溜まっていった。


ある時、殺しに失敗した。相手は多忙で有名な、某大企業の幹部だった。
力の加減を間違えたのはすぐに分かった。何か、硬いものにぶつかって、
それ以上折れていかない。
「肩凝りが、治ったあああ!」
愕然として逆の方向にへし折った。やはり折れない。
「肩から羽根が生えたあああ!」
重役がバンザイのポーズをした。俺は半狂乱になって、
前に折ったり後ろに折ったり、ぐるぐる回したり、いろいろした。
全く命に別状があるようには見えない。
「神様が50歳の誕生日にプレゼントしてくれたんじゃあああ!」
幹部は自室茫然としていた俺の肩を叩き、キラキラした目で微笑みかけた。


それ以来、俺は幹部に頼まれて、肩凝りを治して、飯を食っている。
幹部の他にも、首のおそろしく硬い連中がいて、俺は引っ張りだこになっていた。
そのうち暗殺業は廃業した。実入りは減ったが、後悔はなかった。
世の中には殺し屋には想像もつかない奴らがいるのだ。ごろごろと。