生体体温計少女器官

ごちゃごちゃと物が積まれていて、それほど広いとは言えない部屋に、
巨大な円柱状の水槽が横たわっている。
スイッチを入れると、小さな電子音と共に蓋が開いた。
中には乳白色の粘液と、全裸の少女が入っていた。
不自然に白い肌の少女は、粘液と一つに溶け合うように眠っている。


やがて、再び電子音が鳴り、少女が目を覚ます。
不自然に黒い瞳、黒い髪。
「オハヨウゴザイマス、ゴ主人サマ。朝ノ検診ヲ開始シマス」
少女は無表情なまま、やはり全裸の自分の手を引くと、唇を重ね、
そのまま自分を水槽に引きずり込んだ。
自分を包む少女の体は、餅のように柔らかかった。


生温かく柔らかい粘液の中、少女の唇から空気を吸う。
やがて、濃厚な湿り気が混ざる。
しばらくしてそれは、外の粘液と変わらなくなった。
少女が唇を離す。溺れることなく、息が続いている。
「ソレデハ、コレカラ上半身ノ検診ヲ開始シマス」
少女がゆっくりと輪郭をなくしていく。同時に、周囲が粘り気を増す。


粘液が、ぞろり、と動き出す。頭皮を巡り、目を舐め、鼻の中で蠢く。
耳の中でかさこそと音がする。髪の毛が耳垢に絡まっていたようだ。
鈍い痒みの後、一気に引き抜かれる感覚があった。
歯の周囲が、猫の舌のような感触に、ざらざらと削られていく。
気管がごぼごぼという。そういえば最近痰が気になる。口を開けていると、
肺から濁ったものがこみあげてきて、勢いよく外へ飛び出していった。


やがて、粘液が薄くなり、少女が再び目の前に浮かぶ。
「上半身ノ検診ガ終了シマシタ」
自分の頭の中が、きれいさっぱりしている。
「引キ続キ、体内ト下半身ノ検診ヲ行イマスカ?」
一瞬迷ったが、別にいいことにした。
「了解デス。ソレデハ、朝ノ検診ヲ終了シマス」
少女は再び自分に唇を重ねた。送り込まれる粘液に泡が混じる。
数分間そうしているうちに、肺の中からは粘液がすっかり抜け、
爽やかな空気で満たされていった。


電子音と共に、水槽の蓋が開く。
自分は水槽から出ると、バスタオルで体を拭いた。
粘液が何かのオイルのように水気を弾いている。
Tシャツとトランクスを着けた時点で、相変わらず無表情のまま
水槽から身を乗り出している少女に気づいた。
特に意味もなく、彼女の黒髪を撫でた。
つやつやとした手触りが、妙に心地よかった。


「じゃ、また後で」
「オ疲レ様デシタ」


少女が粘液の中に沈む。
ややあって、電子音と共に、水槽の蓋が閉じた。


さて。
今日も一日が始まる。やることは何もない。
一体、どうやって過ごそうか。