粘菌精油煙草

いつまで経ってもやることがなくならない。
ずっと籠って黙々と作業を続けていると、集中に滲みが生じてくる。目の前が既に波打っていて、仕事にならないこと甚だしい。
思い立って、席を離れた。


下の階の分煙室で、懐を漁る。
白く半透明な液体の入った小さなボトルを取り出し、軽くシェイクし、蓋を開ける。甘いミルクのような揮発臭が、ツンと鼻を突く。
指で挟んだ細長いパイプをボトルに挿し込み、しばらく先端を濡らした後、すっと引き抜く。
(こんなもんかな)
パイプをくわえ、ジッポーで火を点し、ゆっくりと深呼吸する。


ナッツ、フルーツ、チョコレート、スパイス、ハーブ。そういったものを混ぜて焦がしたような複雑な薫り。


気が付くと、土嚢のように重かった体が、砂を抜いたように軽くなっていた。


いつしか火が消えていた。精油が全て揮発して飛んでいったのだ。
わずかな物足りなさを感じながら、分煙室を出た。
いつまでも余韻に浸ってる暇はない。また、仕事が待っている。
(いい年になったら、立派なパイプでも買おうか。昔の映画に出てきたみたいな)


かれこれ72時間。まだ、自分は、頑張れるだろうか。