Moirai Unit(2)・戦車編

過去を変えるべく旅立った我々は、いつの日か同胞たちを迎えに行くことができるだろうか。


………


技術研究班の好意で、新型試作戦車『キャラメルユニット』に乗せてもらった。
旧型戦車と模擬戦闘してみたが、速度も火力もまるで比較にならなかった。
アイアンホースのPakの直撃にも耐える。敵戦車と同等と言ってよかった。
「いずれこれに乗って戦況を覆す日が来るぞ」
『楽しみですね』
嫁がお世辞でもなさげにそう言った。


最近、嫁と一緒に映画を見ることが多くなっていた。
嫁の強い願いからだった。人間について知りたいとのことだった。「人間らしくなりたい」のだそうだ。
『これが私の元となった女優さん?』
「そうだ」
『私の方が美人ですよね』
「あはは。そうだな」
そんな軽口を叩きながら、一緒に映画を見る時間は、何より尊いものだった。
「ところで」
『はい?』
「人間らしくなって、どうするつもりだ?」
『よりあなたのパートナーにふさわしくなりたいのです。人間の外見がパイロットの心の支えになるなら、人間の内面はよりパイロットの心の支えになるはずです』
「そうかな? それを突き詰めると、人間のパートナーは人間ということになってしまうが。それは違うんじゃないかな」
『私たちは人間のサポートに最適化されています。でも、人間らしさという意味では、人間には勝てません。人間らしさと人間のサポートを兼ねそろえれば、完璧じゃないですか?』
「そういうことができるものかな? どこかで限界があるんじゃないかな」
『では、その限界まで近づきたい。私の今の望みはそれだけです』
「望み、か。人間らしい言い方だな」
俺は嫁の頭を撫でた。嫁は嬉しそうに頭をすりつけてきた。俺の掌ではなく、脳に直接触れられているようなような、不思議な感覚があった。
『いつか、疑似触覚でなく、本当にあなたに甘えられたらいいのに』
「それはいいな。本当の体、か」


その要塞の横には、英語とキリル文字と中文簡字体と、あと色々な言語で何か書かれていた。
FORTRESS AUYANTEPUI』
その巨体は、既にキャラメルユニットの猛攻を受けて遺骸と化していた。今は我々の占領下にある。
「工場があった?」
「ここで巡航ミサイルを生産していたようです。弾頭にはおそらく強力な空間圧縮装置と思われるものが設置してありました」
「空間圧縮装置? Pakに使われている奴か?」
「威力は比較になりません。敵はこれを爆弾として用いるつもりだったようですね。核弾頭に匹敵すると言ってもいいでしょう」
「それは危なかったな。発射前に倒せてよかったということか」
俺は整備士と喋りながら、その工場に入った。
「これは?」
幅広のゴムボートらしきものの上に、機銃と砲台が積まれている。
「敵のホバークラフトです。空間制御エンジンで浮いて移動するようですね。敵はこの上に戦車を載せて高速移動していました。ほとんどは制圧前に川に逃げ込んでしまいましたが」
「そうか。こいつを量産すれば、さらに作戦の余地が広がるんじゃないか?」
「現在、生産ラインが動かせるかどうか検証中です。ロックがかかっているので、暗号解析が急務ですね」
整備士に交じって情報部のお偉方らしき面子がいた。何やら色々と指示を出している。
「どんどん新兵器が出てくる。乗りたいな。また嫁が喜ぶ」
「嫁? ですか?」
「いや、何でもない。こっちの話だ」
怪訝な顔をする整備士に、俺は笑ってごまかした。