Moirai Unit(3)・ホバークラフト編

技術革新は競争と協力から生まれる。
我々の技術は我々が持つ。後はこれを、一部は彼らに流し、一部は彼らに新たに開発させる。我々はさらに彼らを追って進んでいく。
世界はますます豊穣なものになっていく。我々が目的を達成する日も近い。


………


嫁をホバークラフト『マノウォー』に接続した。
嫁の喜びようは並大抵ではなく、最近は一日に一度はこれで河川や沿岸を泳いでいる。
『陸をドライブするのもいいけど、海が見えるってやっぱりいいですね』
「そうか? それはよかった」
カモメが飛んでいる。最近は戦闘もなく、のどかな一日だった。
『ところで、今朝、嬉しいニュースがあったんですよ』
「何だ?」
『人型ロボットのボディが明後日届くとのことです』
「おお! これでお前にも体ができるな」
『嬉しいです。これであなたに物理的に抱いてもらえるのね』
嫁がぎゅっと俺の脳髄を抱きしめた。俺は抱きしめ返したが、中空をするりとすりぬけるばかりだった。
(この頼りなさも、もうすぐ終わりか)
目を閉じながら苦笑した。


鹵獲兵器の解析と量産によって、少しずつ戦況は上向いてきた。
各地の要塞はロボット隊や戦車隊によって制圧されていき、河川や沿岸もホバークラフト隊によって奪回されつつあった。
だが、依然として海と空と宇宙は奴らの手の中にある。


そんなある日、動きがあった。
「海軍から協力要請があった。敵強襲揚陸艦から輸送ティルトローター機4機が離陸した。迎撃せよ」
にわかに基地があわただしくなった。
「PakをFlak(高射砲)に換装しました。これで空に対処できます」
整備士がごつくなった砲塔を叩く。
「あとミサイルポッドも装備しました。短距離なら誘導できるはずです。弾頭は小型空間振動装置です。威力は低いですので気をつけてください」
「後は嫁の操縦次第だな。頼むぞ」
『ラジャー』
俺たちはマノウォーに乗り、輸送機の航路を追った。


『3時、敵輸送ティルトローター機1機を確認』
「あれか。Flak、ロックオン。ファイア」
俺の腰の骨から脳天を貫いて、Flakが火を噴く。主翼両端と尾翼両端、計四枚の回転翼が破砕する。
「……まだ浮いている? どういうことだ?」
『空間制御エンジンによるサブシステムかと思われます』
「そうか。めんどくさい奴だな」
『油断しないで。中からロボットが降りてきます』
輸送機のハッチが開くのが見えた。意識を集中して、すかさずFlakを叩きこむ。
『ロボット9体。うち1体はFlakにより撃破された模様。残り8体』
目を凝らす。双腕四脚のロボット。新型だった。
手に持った機銃の銃弾が大地に降り注ぐ。
「まずい。防壁!」
俺はあわてて攻撃をやめ、防壁を展開した。銃弾が防壁と干渉を起こし、あらぬ方向へと受け流される。
『敵が全員で途切れ目なくこちらを狙っています。反撃できません』
「振り切れ。隙ができたらミサイル!」
マノウォーが急旋回した。銃弾が地面を舐める。
大きく避けていくうちに、ふと弾幕に切れ目が見えたような気がした。
「今だ! ファイア!」
『ラジャー!』
両肩にみしりと圧力が生じた。
ロボットの周囲に電子音と共にロックオンのマーカーが重なる。
マノウォーの砲塔部に左右に振り分けられたポッドから、ミサイルが発射される。
空に牙をつきたてるように、飛行機雲が飛んでいく。その先で、ロボットが粉砕されていくのが見えた。
『敵輸送ティルトローター機、3時に向かって反転中。逃亡するものと思われます』
「装甲は?」
『16%。Flakで2発と推定されますが、ここはミサイル8発で確実に落とした方がいいでしょう』
「そうか。じゃあ言う通りにしますか」
もう一度ミサイルを叩きこんだ。輸送ティルトローターの底が抜けていき、背骨がへし折れていく。やがて小爆発を繰り返すと、空中で愉快な音を立てて砕け散った。
『撃破』
「よし。帰ろう」
『……待ってください。基地より入電。3時に強襲揚陸艦がいるので、撃破せよとの命令です』
「何?」
『まだ離陸していない輸送ティルトローターが2機いるそうです』
「ふーん」
水陸両用のマノウォーで、実際に艦艇と戦うのはこれが初めてだ。
「呼ばれたんならしょうがない。行くか」
『ええ。行きましょう』
俺たちは3時へ向かった。元から断つことができるのなら、それに越したことはない。