「脳 回路網のなかの精神」要約

脳 回路網のなかの精神―ニューラルネットが描く地図
脳 回路網のなかの精神―ニューラルネットが描く地図


ヒトのニューロンネットワークを通じて精神を読み解く本。主に学習・想起・記憶について論じている。


この本で一番重要なのは、「ヒトは論理的に概念を操作して考えている訳ではなく、統計的にパターンを操作して考えている」ということです。
少なくとも学習や想起や記憶については、概念というものは出てこなくて、パターンで学習・想起・記憶していると考えるべきであるようです。


あと、ヒトの脳は生まれたばかりでは未成熟なのですが、これは欠点ではなく、逆に未成熟な脳でしか獲得できないことがあるようです。
混合言語としてピジンクレオールがありますが、文法的整合性のあるクレオールは、未成熟な脳によってしか生成でいない、と言われます。これは言語には実は単純な規則があって、それは未成熟な脳にしか分からないから、と言われます。


以後、要約。

ヒトのニューロンは大量の素子を平面的に使ってパターン認識している(パソコンのモニターのように)。論理的というより統計的なネットワークである。素子同士のネットワークは入力のパターンのコントラストを強化して出力する。これは迅速、エラーに強い、といった利点がある。

  • 学習

ニューロンは結合しているが、繰り返し類似した刺激を得ることによって、ニューロン同士の結合が強化される。これが「学習」の基本的な形であり、これによってニューロンは類似した刺激の中から一般的な規則を抽出することができ、単一のネットワークで複数の刺激に柔軟に対応できるようになる。

  • 想起

ニューロンの中には出力を再び入力として受け取りなおすものがあり(フィードバック)、これにより最終的にネットワークが安定的なパターンを持つことがある。これにより、ある刺激の一部を与えると、全体のパターンを出力することができる。これが「想起」(思い出すこと)の基本的な形である。
学習と想起は排他的であり、外部から学習している間は内部的な想起がなされないようにしたい。これはグルタミン酸アセチルコリンが関与している。学習と想起に使われる神経伝達物質そのものはグルタミン酸であるが、学習と想起のスイッチを切り替える神経伝達物質アセチルコリンである。

  • 記憶

今意識されるコンテクストは「作業記憶」に保持されており、入力層・出力層の間に中間層と、中間層を一時的に記憶するコンテクスト層が存在する。これによって時間的な表象が可能になる。また、作業記憶には前頭葉が関与している。
一方、意味情報を長期保存するのには「連想記憶」が使われる。これは側頭葉が関与している。出来事の記憶は海馬を通じて繰り返し大脳皮質に焼き付けられて迅速に記憶される。一方、技能の記憶は、繰り返し経験することで大脳皮質に焼き付けられて時間をかけて記憶される。

  • システムの成熟

システム自体は生まれたときは未成熟で、年齢を経るにつれて成熟していくが、これは「若い頃に単純だが重要な情報を学び、後で複雑で量の多い検証すべき情報をゆっくり検証する」という、安定した環境に適応するのに向く。
「遊び」とは単純だが重要な情報を傷つかないように訓練する仕方であり、子供はこれによって安全に快適に情報を学習する。
連続的な適応の結果、飛躍的な「発達段階」が生じることがある。