「人類進化の700万年」要約

人類進化の700万年 (講談社現代新書)
人類進化の700万年 (講談社現代新書)


人間性、人間らしさって何だろう?」「人間を構成している要素、人間とは中立な要素、人間に固有の要素って何だろう?」ということを追及するためにここしばらく読書していますが、これもその一環です。
この本の特徴は、ヒトが生じて以降獲得していった(つまり以前は持ってなかった)、しかし他の霊長類や類人猿にはある要素をたくさん紹介していることです。これらも「人間とは中立な要素」と呼ばざるを得ないわけです。そうか、そういうのもあるんだ。ちょっと当初の予定と違っちゃった。後で整理しないと。

  • 心ではなく体と夫婦関係が生んだ人間らしさ

ヒトとその他を分ける要素として「直立二足歩行」「犬歯の縮小」が挙げられます。直立二足歩行は分かりやすいですが、犬歯の縮小は新しく聞きました。
では、これらの理由は何か。実はこれは「一夫一妻制」ということと直接の関係があります。
直立二足歩行はなぜ生じたか。その仮説の一つに「食糧提供仮説」というものがあります。環境変化により、食糧が減った時に、オスが多くの食糧をメスや子どもの元に運ぶことになったのですが、その時に立てる(歩くのに手を使わずに済み、手が空いている)オスが、この運搬に有利だったため、残った、という説です。オスがメスや子どもの元に食糧を運ぶためには、オスとメスが密接な関係をもち、子どもが間違いなく二人の子どもであると信じられるようでなければなりません。すなわち、一夫一妻制であったはずだ、ということです(チンパンジーは多夫多妻制で、その結果集団的に子育てしていますが、オスたちは子育てに消極的です)。
一夫一妻制or多夫多妻制か、一夫多妻制かは、オスの体の大きさを規定しますが、ヒトは当初からほとんど男女の間で体の大きさが変わらなかった。また多くの社会では一夫一妻制であり、チンパンジーのような多夫多妻制であるという例はない。ということで、一夫一妻制だったのではないか。という見解です。
これは犬歯の縮小とも関係があり、「オスが地位を巡って争って、強いオスたちが多くのメスとの間に子どもを作る」という方式は、一夫一妻制ではナンセンスということになります。それよりは「たくさん食糧をくれる」という実利の方がいい。よって犬歯が必要なくなったのではないか、という見解です。
さらにさかのぼると、何で「一夫一妻制」になったのか? ですが、この本では「メスの発情期の喪失」が理由ではないか、と示唆されるにとどまります。どちらかというと心というより体の方に変化があったのではないか、ということですね。ここは後でもうちょっと別の本で踏み込んでいかなければなりません。

  • 道具の時代

その後、ヒトは石器を手にするようになります。この石器はどう使われたかと言うと、ヒトはそれまでも死肉漁りをしていたのですが、石器により肉を切り離して持っていったり、骨を割って栄養価の高い骨髄を食べたりするのに使われていたようです(骨髄がない骨や、下あごから下を切り離した痕跡などが見つかる)。
石器と効率的な肉食による栄養価の増大が何をもたらしたかというと、ヒトの脳の大型化です。ここでようやく起きるんですね。
なお、石器というのも簡単なものと複雑なものがありまして、加工にはある程度の想像力が必要と言われています。チンパンジーには想像力がないのか、ヒトのように複雑な石器は作れません。
また、重要なことですが、ヒトは介護をするようになりました。歯が全部失われた老人(といっても40代)が、歯が抜けた後も数年生きていた(歯の跡には骨が再生していた)、ということを示す人骨が発見されました。歯が失われた老人でも、柔らかい食糧を分け与えられて生きていた、と推測されます。
その後ヒトはを使うようになったり、そのさらに後で狩猟(槍と動物の骨が見つかっている)が行われるようになりました。

  • 思考の時代

7万5000年前の南アフリカから出土した土片に幾何学的模様が描かれていて、これは抽象的思考の始まりであるといわれています。
抽象的思考は二つの方面で開花しました。芸術と、言語です。
芸術の話をすると、彼らは赤い土片による化粧や、穴を開けた貝殻による装飾をしていたようです。また、4〜3万年のヨーロッパでは、絵画や彫刻や音楽(楽器)などが見られるようになります。
言語の話をすると、言語は未来・過去の時間を表現できるようになり、歴史を残すことができるようになりました(文字のない文化では、今でも歴史は口伝です)。
また、1万年前の農耕牧畜もありますが、これはこの前書いたからいいや(農耕牧畜は祭りのために生じたという説)。

  • 要約

いつもの。

    • ヒトを構成している要素:

家族制度(一夫一妻制)

    • ヒトと中立の要素;

道具(チンパンジーにはあるが、ヒトには元々存在しなかった)
狩猟(チンパンジーにはあるが、ヒトには元々存在しなかった。死肉漁りだけだった)

    • ヒト固有の要素:

想像力
介護

抽象的思考
芸術
言語
未来・過去の表現
歴史
祭り
農耕・牧畜


今回の発見は、

    • 「ヒト固有の要素」が大量に見つかった(一時はヒトを構成している要素としてカウントしていたもの含む)
    • 「家族制度があってヒトは直立二足歩行が可能になったのではないか」
    • 「死肉漁りは採集のカテゴリに属するのではないか」
    • 「やっぱり抽象的思考と言語はヒト固有のものなんじゃないか、コミュニケーションそのものは早くからあっても、それに使われる記号を一律「言語」として扱うのは無理があるのではないか」
    • 「歴史は過去の表現ができる言語なしにはあり得ないのではないか」

ということです。
こうすると、もう大幅に直すことははっきりしている例のWikiを、さらに大幅に直さなければならないので、ゲップが出そうです。
でも、「家族制度がヒトの直立二足歩行と犬歯の縮小を可能にした」というのは発見としては大きいな。ヒトのヒトらしさというのは、実際には家族関係なのかも知れない。ここは後々掘り下げていきたいところです。