「脳と意識の地形図」要約

ビジュアル版 脳と意識の地形図―脳と心の地形図〈2〉
ビジュアル版 脳と意識の地形図―脳と心の地形図〈2〉
今まで意識に関する本を何冊か紹介してきましたが、これもそういった本の一つです。


脳にはいくつか難しい問題がつきまといます。例えば、脳が情報をいかに処理するかは比較的「やさしい」問題ですが、脳がいかにして情報を感覚等に変化させるか「難しい」問題に属します。これは「何で有機物質が生命活動を生むのか」にも似て、何か有機物質の一定のパターンが生命活動である、というのと同じレベルで、脳と情報の一定のパターンが感覚である、と言い張れる一定のパターンを見出さねばなりません。
意識はさらに難しい問題で、普通は自然科学は「客観的な」証拠がありますが、意識に関してだけは「主観的な」証拠しかないという大きな断絶があります。このせいで意識に関しては「脳の一定のパターンが意識である」ということと、「その証拠はこれである」ということの二つのレベルで困難が伴います。
この本では、とりあえずそういう難しい問題は避けて、やさしい問題を解いて積み重ねていくうちに、難しい問題に何か寄与することはないか、という戦術を取ります。


いろいろ書いてあるのですが、まとめでは大きく二つに分けて論じます。一つは意識の内容の細分化、もう一つは意識そのものの細分化です。

  • 意識の内容について

第一に、意識=経験(この本ではこの二つは同じものとして考える)には概念が必要だ、といいます。
この本では概念というのは「一個一個の考え」以上の意味を持たされていて、脳の発火パターンも含んでいます。考えも発火パターンも、要するに「ある決まったやり方で世界をとらえようとする物理的なメカニズムである」という解釈です。当然、脳の発火パターンなしには意識が存在するはずがない、というのは納得がいくかと思います。
具体的には、何かを「理解」すると、概念が追加され、意識=経験の内容がそれに伴って変わります。
新しい概念を学習するには、既存の概念と結びつける必要があり、こうしてできた概念の集まりがいわゆるカテゴリーです。カテゴリーがいったんできると、新しい概念はそれに結び付けられて学習されます。こうして概念はどんどん大きくなり、意識=経験の内容も充実していきます。

  • 意識そのものについて

意識=経験を成り立たせている「自己」は、境界、所有感覚、主体、統一などの性質を持ちます。
重要な論点ですが、意識やその決定である意志は、決して行動の原因とはなっていません。脳の中の活動が意識や意志を生み出している「と同時に(正確には少し遅く)」行動をもたらしているのであって、このズレが単に推論能力によって「相関関係で前後だから因果関係である」という荒っぽい解釈をしているに過ぎないのです。
じゃあ意識は行動にとって何の役にも立ってのかというと、その時の行動にとっては役に立っていなくても、「この行動は自分がした」ということで、行動が終わったあとの事態に対して、「自分の」行動として把握し、「自分の」行動計画の中にあった細かいエラーを修正して、後の行動にフィードバックできる、ということです。長期的には行動の役に立っているということですね。
また、主体感覚に基づく責任者としての自己は、社会や道徳や司法を支える要素として機能しています。長期的な行動チェッカーである自己は、社会においても役に立っているということです


あと、

    • 注意は実際には注意の部位である視床のみならず、前頭葉の短期記憶頭頂葉の身体地図・空間が結びついてはじめて注意が発生する
    • 人間の記憶の中にはリハーサルという機能があるが、繰り返された経験自伝的記憶として定着する
    • 意図的な活動という自己認識は、制御可能かどうかに加えて、環境が与える抑制刺激があるかどうか、ジレンマを覚えるかどうかによって決まる

など、刺激的な論点がありますが、意識に関しては上の二つを押さえておけば十分かと存じます。