『ちょっとヤバイんじゃない?ナショナリズム』要約

『平和をつくる ちょっとヤバイんじゃない?ナショナリズムisbn:4759267034

要約

高橋哲哉
  • 人権を掲げた列強は植民地では人権を守らなかったし、日本は人権を掲げなかったし、アメリカは人権を戦争の理由にしている
  • 現在の日本国憲法においては国民以外の人権は保障されない、すべての人に人権を認めるべきではないか
  • 憲法は権力分立と権利保護が旨なのに、自民党改憲案は義務付加を盛り込もうとしている、おかしい
  • 首相の靖国参拝違憲判決が出ているが、首相は無視して参拝を繰り返しており、判決に拘束力がない
  • 日本人の政府に対抗する運動も、個人ではなく集団の論理で動いており、個人の尊厳を貫けていない
  • グローバリズムも所詮アメリカのナショナリズムの拡張にすぎない
村井吉敬
  • 日本はODAを行っているが、国益中心であり、相手国の利益を中心としないため、評価されていない
  • 日本は人権を理由に自衛隊や兵器を送り込んで軍事活動をしている
  • 地域統合のような国家の連帯だけではなく、NGOや市民団体による超国家的な連帯もありうる
  • グローバル共同体はいまだ実現しないため、既存の国家の枠組みの弊害はいまだ機能し続ける
姜尚中
  • 日本はアメリカに従属しているが、日本のナショナリストは反米ではないのが奇妙だ
  • 国民国家は異物を作って根絶するという方法を取っており、「文化の衝突」論もその延長にある
  • グローバリズムナショナリズムの対抗軸としてリージョナリズムEUなどの地域統合)がありうる
  • グローバリスムに同化されそうな勢力が、反抗のためにテロに走るということが避けられない、テロはグローバリズムの反作用だ
  • 日本も韓国も中国もアジアでの勢力争いをしており、靖国参拝問題はそのネタの一つであるが、六者協議のように合意形成もありうる
  • グローバリズムの中で、国家は弱者を救済しているふりをして実は搾取している
  • 日本は南北コリアと違い内戦の経験に乏しいため、南北コリアの問題にいま一つ切実でない
  • 日本の戦後補償は、経済協力による海外進出という意味で、日本の国益の論理であり、補償としての意義が疑われる
辛淑玉
  • ある弱者のフラストレーションが、政府によって別の弱者を叩くよう誘導されている、それは不毛だ
  • 人を応援するよりまず自分が頑張って行動してほしい
  • 戦争の時に生まれていない人は、戦争について加害も被害もないが、今いる被害者を救うべきではある
  • アメリカには貧富の階層があり、それをグローバリズムは世界に普及させようとしている
  • 差別は快楽であり、それが集団化するとナショナリズムとなる
  • 市民運動は知的であるだけでなく、もっと魅力的であるべきだ
李省展

さらなる要約

  • 国家は人権を悪用して軍事活動をしているし、社会の人権を縮小し、弱者を搾取・利用しようとしている
  • 人権はすべての人に認められるべきで、国民だけのものであってはならない
  • ナショナリズムの主体たる国家以外にも、EUなどの地域統合や、NGOや市民団体や、個人などのアクターがありうる
  • 日本の外交政策は露骨に国益優先であるため、戦後補償やODAの意義が国際的に疑われている
  • 国際的な合意形成が必要な時に、ナショナリズムは有害である

説明

ナショナリズムや、その主体である国家や、アメリカのナショナリズムの延長であるグローバリズムを批判する本です。
後述しますが、1500円出してまで買うほどいい本ではありません。

雑感

まず、社会における人権ということを考えねばなりません。
人権の持ち主である我々社会は、人権から解放されようとする軍や政府を拘束しなければならないはずです。
平和は「どうしても人権が侵害されがちな戦争を起こさない」という理論で尊重されているのだし、
国家、特に国会と内閣は「参政権に基づき、人権を侵害しないよう権力分立で縛る」という理論に従います。


日本人は人権を割とナメており、一国の平和や国益のためなら人権を軽視してもいいと考えがちですが、
そうではないということは知らねばなりません。
平和や国益の理論的根拠は人権であり、今のルールでは軍や政府はそれに従うのだが、
軍や政府はどうしても人権を侵害がちであり、統制が必要である。ということです。


そして、ナショナリズムや国家やグローバリズムということを考えねばなりません。
国際社会においては、点である国家(内政)と線である外交は切って離せません。
内政を外交から独立で運営できる国家はほぼゼロと言っていいでしょう。
軍事・安全保障においても、他国と戦争しないために、外交による合意形成は必須です。


現時点では、国家にとってナショナリズムは、外交における覇権争いのカードです。
「強い」方がいいのは政治の基本であり、国家はそれに忠実なだけです。
しかし、これが軍事・安全保障における合意形成を破壊しては元も子もありません。
そもそも軍事・安全保障は、「力」の管理のある意味根幹に関することであり、
ここでトラブルになることは実は国家を「弱める」ことにしかなりません。
具体的に言えばまた戦争になり、攻撃され、我々は戦死または餓死するのです。


グローバリズムは問題を沢山抱えていますが、少なくとも世界を一つの社会にするというモデルを与えています。
で、一つの社会ということを考えると、より多くのものを共有すべきだということになります。
軍事・安全保障が共有されれば、戦争の余地は大幅に減るため、大変安全になり、また経済的ですね。
また、それは普通、グローバリズムとまでいかなくても、リージョナリズムで扱う地域レベルである程度解決します
(米露中の対立はありますが、実際に起きている紛争の多くは地域レベルですしね)。
国家が外交に頼らざるを得ない以上、地域統合は今最も現実的な平和の手段ということになります。

この本の問題点

正直、あまりこの本は一般人にはオススメできません。

  • 身内の慣れ合い、ある種の弱者(フリーター、ニートなど)に対する敵意と侮りの匂いが鼻につく。
  • 題名を含め、アオリが煽情的であり、感情で動く人たちを煽動しようという知的不誠実さを感じる。
  • 憲法オタク以外ついてこれないのではないか。「公共の福祉」とかの誤解される専門用語を説明抜きに使っていいのか。


よって、このエントリは、ぶっちゃけこのエントリを読んだ人が改めてこの本を読まなくていいように書きました。
真面目に読んで、後悔しながら要約した俺を褒めてやりたいです。ああ畜生。
俺の1500円を返せとは言いませんが、もっと値段を上げていいから、感情的ではない誠実な内容にしてほしかったです。


これを読むくらいなら、『国民国家とナショナリズム』『個人と国家』買って読んだ方がはるかに金の有効利用です。
冷静に人権やナショナリズムについて学ぶためには、この二冊をお勧めします。(ひどい結論になっちゃったなあ)