『行動経済学』要約
『行動経済学 経済は「感情」で動いている』isbn:4334033547
要約
第2章 人間は限定合理的に行動する
- 実際の人間は確率・論理的推論が苦手である
第5章 プロスペクト理論(2) 応用
- 標準的経済学とは異なる行動が導き出される
第7章 近視眼的な心
- 異時点間の選択:決定の時点と損失や利得を得る時点が時間的に離れているような意思決定
- 標準的経済学-将来のできごとに対して利子率に等しい割合で割り引いて価値を評価すべき
- 行動経済学-将来に対する割引は非常に多様な要因が組み合わされて生じるのであって、割引率という単一の要素で捉えられないのではないか
- 時間的非整合性:人々の選好は一定不変ではなく、時間の経過とともに変化する
- 効用(満足)には経験効用、記憶効用、決定効用があり、一元化できない
- 満足の最大化は困難である
- どの選択肢を選べば将来の満足が最大になるのかが分からない(一元化できない)
- 満足を最大にする選択肢がわかったとしても、実際にそれを選択するとは限らない(時間的非整合性)
第8章 他者を顧みる心
- 利他性:自分の物質的利得の減少というコストをかけて、他者の物質的利得を大きくする行為や性質
- 利己性:もっぱら自分の利得だけを追求する行為や性質、経済人の持っている性質
- 公共財ゲーム:皆で力を合わせて仕事をすれば大きな成果が得られるが、誰もが他人の働くに期待してサボろうという誘惑がある状況
- すべての人が常に利己的な行動をとるわけではない
- 完全に利他的な人もいないか、ごく少数
- 協力関係は、放っておけば崩壊してしまう
- 処罰を導入すると協力率が劇的に上がる
- 不平等回避性:参照グループの他者の利得を参照点とし、それに比べて自分の利得の差が大きいと不公正と判断する
- 間接的互酬性:親切な人は、自分が親切に接したのではない他の人から親切に扱われる
- 経済人と互酬人の相互作用:経済人だけを想定している標準的経済学とは異なる結果になる
第9章 理性と感情のダンス
- 感情の動き
- 感情が経済的行動においてヒューリスティク的に働く
- 神経経済学:脳の活動を観察して、人間の意思決定行動について理解を深めようとする
- 行動経済学に対する様々な証拠
- 進化の力
- 近視眼性はかつて適応的であった(が、今は適応的ではない)
- 協力行動の進化:遺伝子と文化の共進化
- 進化生物学的利益=適応度=子孫の数であり、かつては経済的利得と適応度は正の相関関係があった(が、今はそうではない)
- 文化的進化:協力的集団は非協力的集団に対して闘争で勝利しやすい。ただし個人の非協力的行動はありうる
- 人間は、感情がもたらす快を含めた、生理的な意味での効用最大化を目指しているのではないか
- 利他的行動も快楽をもたらすので、利己的行動と言ってよい
さらなる要約
標準的経済学では、人間は経済人であり、合理的で、自分の物質的利益を追求する存在であると仮定されています。
それでは実際の人間の行動にそぐわないという反省から、実際の人間の行動を元にした行動経済学が生じます。
本の中では、人間がヒューリスティクスによって、バイアスの制約下で意思決定していること、
また人間がある程度利他的に意思決定していることが、様々な例を元に述べられています。
それらの理由については、人間は進化の結果、ヒューリスティクスを使った方が資源の限られた状況下では有利で、
利他的に振る舞った方が集団として有利だった、という説明がなされます。
そして、人間は感情がもたらす快を含めた、生理的な意味での効用最大化を目指しているのではないか、
それはヒューリスティクスに拘束されているし、利他的行動もその一環として生じる、という結論に至ります。
個人的な感想
公務員試験で勉強したような標準的経済学と言えば、極めて数学的な学問でしたが、
行動経済学はむしろ進化生物学・心理学寄りです。
経済というのは意思決定をする意思にとって初めて意味があるものなので、
経済学は心理学の「後に」位置しないといけないというのは常々考えていたところです。
そういう意味で、この行動経済学には大きな価値を認めるものです。
この本の中では、標準的経済学のうち特にミクロ経済学について批判がありますが、
世界経済レベルだとマクロ経済学があるので、そこにも波及することが望まれます。
特にマクロ経済学は各国や国連専門機関の政策的基盤なので、
より適切な学説がより適切な政策に結びつくという意味で、ここの改善が大変重要です。
長らく主流だったケインジアンは70年代のスタグフレーションによって挫折し、
その後サプライサイド、マネタリストなどの学説が乱立する今、
より現実に沿った学説はぜひ望まれるところです。