『人類史のなかの定住革命』要約

『人類史のなかの定住革命』isbn:9784061598089


こっちはヒトが定住しだした頃に焦点を当てた本です。
常識的には農業によって定住が行われたと言われていますが、後に紹介する『新不平等起源論』を合わせて読むと、定住と農耕は独立に起こったと考えるべきであるようです。
定住のきっかけには魚類資源の利用、大規模な漁撈装置の開発、食料の大量貯蔵が挙げられます。意外なことに農耕ではなく漁撈が定住の動機だったということのようです。
パッと聞くと信じられませんね。どうやって漁撈が農耕につながるんだ? まあそこはこういう説明があるんです。

  • まず氷期が終わった。熱帯は後退し温帯が広がった。
  • それまで熱帯に暮らしていた遊動狩猟採集民だったヒトは温帯に進出した。
  • ところが温帯には季節があり、食える時期と食えない時期があった。
  • ヒトは食える時期に食料を保存し、食えない時期にそれを食っていくことで対処した。
  • ヒトは果実・種子・若芽・肉類・根茎類に加え、新たに魚類を食べるようになり、これを保存することにした。種子も保存に向くため保存した。
  • 保存すると今までのように遊動することはできなくなり、定住を余儀なくされた。
  • 定住の結果、薪のために森林を伐採することになった。
  • 陰樹林は伐採すると草原や陽樹林になり、クリやクルミや野草など食料となる植物が多く生えるようになった。
  • ヒトは食料となる植物を選択的に残すようになり、これが栽培や農耕に至った。


定住は魚や種子などの保存が原因だった! 農耕は定住の結果! 大変刺激的な説です(『新不平等起源論』では常識的に農耕が定住に先行する事例も描かれていますが)。
具体例として実際の定住漁撈民について論じられています。彼らは高い物質文化や人口密度、世襲的な分業や社会階層がみられます。農耕民でなくてもそういう属性はありうるということですね。


この本ではさらに昔のことまで書いてあります。即ち、サルからヒトへの進化についてです。

  • 中型類人猿はヒヒなどの大型オナガザルと競合するために投石・棒の使用を行い、そのために樹上種ではないのに手が発達した。
  • ヒトは初期は果実・種子・新芽の採集民だった。
  • 後に道具使用の発達により肉類・根茎を利用できるようになり、狩猟採集民になった。
  • その後氷期が終わり、以下さっき述べた流れになる。

ここは『人類の進化史』と違うところで、攻撃のための道具使用(といっても投石や棒だけど)が手の発達・二足直立歩行につながったという説ですね。
熱帯雨林がサバンナになったから地に降りざるを得なかったという説は否定されています。熱帯雨林に住むヒトもいるからね。むしろこの本では熱帯雨林で手が進化したヒトがサバンナに進出した、という考えのようです。