『新不平等起源論』要約

『新不平等起源論 狩猟=採集の民族学isbn:4588005057


農耕と定住に関する本です。
この本では定住漁撈採集民の生態を詳しく描いています。何か見ていると農耕牧畜民とあまり変わりません。

  • 高い人口水準
  • 分業、特に専業的手工業
  • 社会的不平等、世襲、首長制
  • 富の集中と再分配による金権政治
  • 民族間での交換
  • 戦争(遊動民にもあるが、経済的理由による点が異なる)、捕虜による奴隷
  • 祭(宗教的意義、および富の再分配と威信の誇示)
  • (地域によっては)貨幣、銀行、インフレ防止のための財の破壊


これらの社会を支えるものは何か? という問いに、この本は魚類またはドングリの備蓄技術を挙げています。備蓄技術が漁撈またはドングリの採集、そして定住と富の偏在をもたらした、という見方です。
なお、環境的に熱帯は備蓄に向かないことも書かれています。この辺の主張は『人類史のなかの定住革命』と似たものです。


農耕との関係で言えば、ある地域では種子を備蓄するとともに種子を育てる文化が生じ、農耕に至ったと考えられます。農耕と定住は、定住が先だった地域もあるし、常識的に農耕が定住に先行した地域もあります。


定住民・首長制に顕著なのは富の集中と再分配ですが、遊動民はどうかというと、大型の獲物を狩人が入手できずに共同体の全員に贈与する、ということが広く見られます。
片や不平等、片や平等に見えますが、いずれにせよ誰かへの贈与と共同体の全員への分配、そして贈与した人の威信の誇示という要素は共通しています。
違うのは、定住民では贈与の先は直接的には共同体の全員ではなく首長であること、共同体の全員に分配し威信を誇示するのは狩人ではなく首長であることです。
これは技術の革新のみならず、狩人から首長への権力の移動が要素として見落とせません。備蓄技術・権力の移動が経済制度を分配から集中・再分配へ変えたと言えるでしょう。
そして、首長制の権力は、世襲された地位と、富によって支えられていました。富が不平等を支えていたということになります。ここに政治と経済の相互作用が認められます。
政治と経済どっちが先かというのは大変興味深い問いですが、この本ではそこには答えていません。イヌやサルは経済ではなく暴力によって権力を維持しているから、いちがいに経済→政治というわけではなさそうですね。