『民族の世界』要約

『民族の世界』isbn:4061589636


エルマン・R・サーヴィスと言えば、人類学において「バンド→部族→首長制→国家」という社会進化理論を打ち立てた人です。
大雑把に書くとこんな感じ。

  • バンド:血縁で結び付いた非定住民
  • 部族:血縁で結び付いた定住民。バンドより人数が多い
  • 首長制:階層があり、富の集中と再分配が行われる。部族より人数が多い
  • 国家:行政機構がある。首長制より人数が多い

では、それぞれどのような特徴があるか、ということを書いたのがこの本です。

性・年齢による地位の分化

どの段階でも性・年齢による地位の分化がみられます。
非定住狩猟採集民族では男が狩猟、女が採集というのが一般的です。
また、年齢による通過儀礼も広く見られます。
この辺は現代日本社会と大きく違うところですね。現代社会は男女の地位の分化も通過儀礼もどんどんなくなりつつあります。
なぜこのような差が出てくるか興味深いところです。

経済

バンドでは贈与が広く見られます。少ない富を平等に分配することによって誰も困らないという戦略です。
上部ナイル河のヌアー族の部族では結婚の持参金のやりとりが見られます。
首長制・国家では贈与のほかに富の集中・再分配が行われます。首長制では首長・貴族がこれによって富を得て、国家では軍隊・役人がこれによって維持されます。

宗教

どの段階でも死者・祖先の霊や超自然的存在があり、これを扱うために宗教が存在します。
場合によってはこれが技術的な呪術になるケースもあります。
宗教と倫理とは結びついている場合もありますが、結びついていない場合もあります。それぞれ関係はあるが独立であるとしか言えないようですね。
シャーマンは政治的権力を持っている場合もあれば、持たない場合もあります。

医療

どの段階でも病気の治療は宗教と関連したもので、儀式による治療が行われます。
WHO(世界保健機関)で一時期論じられていた霊的健康を彷彿とさせますね。
これも現代日本社会では受け入れられがたいもので、医療と宗教は分化してしまっています。

倫理・法

バンドに強く見られる倫理として、贈り物や共有による平等があります。嫉妬されるような不平等は強く避けられます。
また、性や家族に関する規範も広く見られるものです。
首長制では身分による礼儀作法がみられます。
部族では村八分・陰口・非難による制裁による制裁(ベンサムの言う道徳的制裁)が行われますが、国家では慣習法に加えて法律が定められ、それに従っています。(バンドや首長制については特に書いてなかった)

結婚・家族

どの段階でもインセストタブーがありますが、結婚できる範囲はそれぞれの民族で違います。
また、どの段階でも結婚は家族同士のもので、花嫁花婿の都合は考慮されません。ここは現代日本社会はそうなりつつあります。
子供が出来ない結婚は完全ではなく、離婚することが多いです。

政府

カラハリ砂漠の!クン・サンのバンドにはヘッドマンがいます。これはバンドの移動を調整しますが、仲裁や裁定の権限はなく、世論に任せています。
上部ナイル河のヌアー族の部族では殺人事件やウシの所有権を巡って仲裁・勧告する酋長はいますが、彼にはそれを強制する権威はありません。
バンドや部族では、社会全体のための仕事をする人はいるものの、それに特に強い権力は与えられていないと見るべきでしょう。


首長制では富の集中と再分配という財政がなされますが、政府組織というものは出来ていません。
基本的に政府というものは国家以降のものです。

戦争

どの段階においても戦争は広く見られます。
バンドでは戦争はあまりありませんし、場合によっては危険な武器を持っている部族では暴力は避けられますが、ない訳ではありません。
上部ナイル河のヌアー族の部族ではウシを掠奪する経済的目的での襲撃がみられます。
首長制では社会的上下関係を巡る戦争が行われ、国家では軍隊による征服が行われます。

警察

首長制までは見られず、国家にのみ見られます。
基本的には徴兵・賦役によって軍事・警察・公共事業などが行われます。

概観

性と年齢による分化・経済・宗教・医療・倫理・家族・戦争はどの段階でも見られます。
財政は首長制から、政府・警察・法は国家からとなっています。