ダマシオの著作三部作の要約

  • 情動

ここに対象があるとする(知覚・記憶いずれでもよい)。
これにより対象のイメージが生じる。また、神経部位が活性化し、外から観測できる情動が生じる。
この本において情動とは、何らかの身体的刺激やイメージに対する反応を意味する(イメージが必要ない動物も多い)。
情動は反応を生み出し、有機体が効率的に反応できるようにしている。
後述するソマティック・マーカーにおいては、特にイメージによってもたらされる後天的な情動である二次の情動が重要である。

  • 感情

対象とそのイメージは有機体の命の自動化された管理を司る(体性感覚-運動的な)身体イメージ=原自己を変化させる。
これにより、身体状態の変化を表象する一次のマップにおいて内的な感情が生じる。
感情は原自己を他の各イメージ(顔の視覚的イメージ、メロディの聴覚的イメージ等)の後に並置し、各イメージをポジティブまたはネガティブな状態に制限させる。
これにより、注意を喚起し、問題解決のプロセスに必要な莫大な数の五感や記憶の情報をタイムリーに統合する。
情動と感情を区別する場合、情動は身体に属し、感情は心的イメージに属する。いわば、感情とは、情動を心が知覚することである。

  • 二つの意識

感情の一次的なマップとは別に、有機体と対象の関係を表象する二次のマップがあり、「有機体を代表する原自己に基づく、知覚する私と言う中核意識=中核自己が、ある対象と関わって変化している」ということを表象している。
強いて言えば、この中核意識=中核自己は主語で、感情は述語であると言える(意識は言語以前のものなのでこの表現は適切ではないが、原自己と感情の関係からそれに類似したものが生じ、知覚を伴う主語としての意識が生じると言える)。
中核意識=中核自己の用途は「今何が起きている、物事のイメージとこの身体の関係はどんなものか?」に答えることであり、また覚醒や集中した注意を強化し、「集中的な注意が対象に払われねばならない」というメッセージをもたらし、反応を最適化するのに役立つ。

この中核意識は対象に注意を集中させることを司る。
また、中核意識以後にワーキングメモリが必要になる。記憶(特に自分についての記憶)も必要になる。
中核意識、集中力、ワーキングメモリ、記憶によって、自分自身が何者であるかを説明できる延長意識=自伝的自己が可能になる。これらは有機体に最大可能な範囲の知識を知らしめることと関係している。
延長意識=自伝的自己によって、言語、創造性、知性(新規な反応が計画され達成されるように知識をうまく操作する)、良心(利益を超えて規範と概念を構築したいという願望)等が可能になる。

  • ソマティック・マーカー、社会的意思決定、社会的推論

ソマティック・マーカーとは、あるイメージについてネガティブな結果が頭に浮かぶと、そのオプションを選ばなくなるというもので、学習による二次の情動から生み出された特殊な感情である。

イメージは順序良く配列・類別・ランク付けされ、思考されることで、行動・意思決定に影響を与えることがある。
また、心の中で一体のものは脳の一つの場所で一体になっているわけではなく、注意ワーキングメモリで統合している。
前頭前皮質腹内側部(ソマティック・マーカー)は、イメージのランク付け(価値)に対するマーカーとしてだけではなく、背外側部(注意とワーキングメモリ)を継続させるためのブースターとしても作用している。

ソマティック・マーカーは後に利益を得るために今犠牲に耐えるときにも生じる。ソマティック・マーカーが損傷した患者においては、近視眼的将来しか見えないし、遠い将来を重んじようという知識を学習できない。
社会的慣習や倫理的構造は後に利益を得るために今犠牲に耐えることの上に成り立っている。よってソマティック・マーカーが損傷した患者においては、社会的慣習や倫理的構造が、知識としては知っていても、意思決定の基準としては理解できなくなる。

  • 読んでいてより知りたいと思ったこと

二つの意識ソマティック・マーカー、社会的意思決定、社会的推論の関係はどのようなものか知りたい。