『ベーシック・インカム入門』を読んでいると疑問が湧いてくる

ベーシック・インカム入門』isbn:9784334034924


ここの議論を合わせて読むとより分かりやすくなるかと存じます。
http://d.hatena.ne.jp/Marnier/20091116/p1
ベーシック・インカムを導入したらどうなるか試算してみる - reponの日記 ないわ〜 404 NotFound(暫定)


この本の作者の山森亮は「財源論はベーシック・インカムを否定したい人の妄言」と切って捨てているのだが、ちょっと待て。

財源を問う議論は単なる"恫喝"
 ベーシック・インカムの話をするとしばしば出てくるのは「財源はどうする?」という質問である。奇妙なのは、お金がかかる話すべてに財源をどうするかという質問がされるわけではないことである。国会の会期が延長されても、あるいは国会を解散して総選挙をやっても、核武装をしようと思っても、銀行に公的資金を投入するのにも、年金記録を照合するのにも、すべてお金がかかる。だからといってこうしたケースでは「財源はどうする!」と詰め寄られるということはまずない。
 こうしたなかで特定の話題(生活保護などの福祉給付やベーシック・インカムなど)にのみ財源問題が持ち出されるあり方を見ていると、財源の議論を持ち出す動機は往々にして財源をどう調達するかについて議論したいのではなく、単に相手を黙らせたいだけであると思わざるを得ない。
(山森亮ベーシック・インカム入門』P221-222)

違います。
富の集中・再分配の性格が強いものは何をさしおいても財政上の整合性が問われるからです(だって富の集中・再分配こそが財政の任務なのだから)。
公的資金投入、公共事業、福祉、そしてベーシック・インカムも全てその議論の上にあるんじゃないのか。


あと財務省は財源について質問することが大いにありうると思います。

ノーベル経済学賞受賞者のフリードマンは、ベーシック・インカム型の政策である負の所得税を提案し、その方が既存の保険・保護モデルより安上がりだという興味深い主張をしている。

うーむ。
負の所得税ベーシック・インカムは違うことをこの作者は別のところで書いているのだが。何でこういう欺瞞的な書き方になるんだ?
低所得者所得税を給付するのが負の所得税で、対象は相変わらず低所得者だけだ。安くなることはありうる。ベーシックインカムは違う。国民全員が対象になる。
http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/b_toukei/shihyou2008/data_ken/128.pdfを見ると平成18年で保護率の全国平均が11.8(/1000)人。
単純に言ってベーシック・インカム生活保護水準を達成しようとすると90倍の歳出となる。安上がりとはとても思えないどころか絶望的だと思うのだが。
生活保護 - Wikipediaを見ると、平成17年度の東京都の一人暮らしが月額14万。生活保護から住宅扶助を省くから月8万円で済むらしい。
これを90で割って900円給付ということにするか? 一日30円。ほとんど何も出来ないぞ。


増税する? よろしい。今2009年で119万世帯が受給しています(本当は夫婦や親子もいるからもっと高くなるのだが、全部一人一世帯として最低限安いと仮定します)。
日本の人口統計 - Wikipediaを見ると、2005年度の人口は1億2800万人。100倍か。一人と世帯のズレがあるとして、低く見積もってさっきの90倍とします。
では、現状の生活保護スタイルで8万円*12ヶ月*119万世帯=1兆1424億円。
ベーシック・インカムスタイルに切り替えると8万円*12ヶ月*1億2800万人=122兆8800億円。
年間差額121兆7376億円を増税で賄わなければならないということになります。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/h22top.htmを見ると、平成22年度の概算要求額が95兆円だから、それよりデカイのかよ!
これにより、役所をスリム化すればどうこうできるという説がかなり非現実的な話だと言うことが分かります。役所が全部なくなっても賄えない訳だ。


どうやって増税する?
富裕層が莫大な利益を得ているのだとしたら富裕層から取ればいいとなりますが、高額納税者公示制度を見てみましょう。
高額納税者公示制度 - Wikipedia
2004年のトップは37億円、二位は12億円、三位と四位は11億円。
さて、トップだけを考えると、このトップと同じ金額を納税する人が32973人いてそれだけ取れればOKとなります。あるいは32973倍課税すると。
果たしてそんなことが可能なのでしょうか? そんなに富裕層に金があるんでしょうか? ないでしょうね。取れるとしたらこれに比べてかなり少ない量になると思います。


所得税法人税を上げる?
国税庁ホームページリニューアルのお知らせ|国税庁を見ると、所得税は平成14年で平均11.9%徴収されて、所得税 - Wikipediaでは平成14年で15兆円の税収。
法人税 - Wikipediaを見ると、法人税は30%で、2007年で15兆円。合わせて30兆円。
となるとこれらを4倍増にすればいいことになります。60%の所得税、150%の法人税。おい、100%越えたぞ! 借金せえっちゅーんかい! どっから金調達してくるんだよ!



次は消費税です。広く薄く取ればいいという発想です。
先ほどのブログのエントリの計算では、消費税を1%上げると2兆円の歳入追加が見込めるとなっています。
つまり、消費税を61%上げればOKということですね。物価が1.6倍になる計算です。
そして物価が上がったことにより来年の生活に12.8万円必要になります。するとまた必要な予算が増えるということになり、195.2兆円必要になり、消費税は160%上がり、年々1.6^n乗。これはインフレターゲットがイギリスの2.0±1%だから、年々60%も上がったら、ジンバブエとまではいかなくても、かなりまずいインフレと言えます。
というわけで、消費税は物価を上げるから悪い手でござる。


最後に、政府が公益会社を経営して年に122兆円ひねり出す。おお、これなら税を上げる必要がないぞ!
……どうやってそんな儲け出すんだよ! メイドロボでも輸出するか? 元素変換技術でも開発するか? そういう抜け道を作らないとちょっと無理な金額だと思います。


ベーシック・インカムを導入したらどうなるか試算してみる - reponの日記 ないわ〜 404 NotFound(暫定)を読むと、社会福祉保障費を全廃すると49兆円ねん出できます。


合わせ技でどうにかならんか?
社会福祉保障費で49兆円、残り73兆円は所得税72%(60%増、6倍)で75兆円、といったところか。
となると、個人で稼いだら6割余計に国に持っていかれて、年金はベーシック・インカムに代わる、というところか。
サラリーマンの給料の手取りが66%だと考えると、これが6%になる訳だ。初任給が月々16.5万(俺の場合。派遣プログラマ)だから、これが15万減って1.5万。これがベーシック・インカムに上乗せされる余剰おこづかい金額ということになるわけだ。この中で一ヶ月の投資を全て行わなければならない。職能がついて倍の稼ぎになっても3万円。
こうなると保険いくつかかけたらもうなくなる計算になる。自動車とか家とか恐ろしくて買えないぞ。どうすんだ。


あるいは企業に負担してもらう方法もある。
社会福祉保障費で49兆円、残り73兆円は所得税60%(48%増、4倍)で60兆円、法人税45%(15%増、1.5倍)で12.5兆円、といったところか。
となると、個人の稼ぎから4割8分、企業は1割5分余計に国に持っていかれて、年金はベーシック・インカムに代わる、というところか。
サラリーマンの給料の手取りが66%だと考えると、これが18%。16.5万が12万減って4.5万。個人ならまあこれで大丈夫かしらん。
企業はキツイかな。今まで払っていた金額の1.5倍払うというのは、中小企業は相当厳しいんじゃないかな? 法人税の安い海外に移転するところも出てくるだろうなあ。


そんなこんなで、財源と人口という要素を考えると、ベーシック・インカムって厳しいのではないか? と考えざるを得ませんがどうでしょう。
今人口を絞って生活保護をしているのはやむを得ない妥協案で、それでも財政的に厳しいというのが現実じゃないかな?
やっぱメイドロボ作らないと! そして元素変換技術! (てめーは黙ってろ)