クリストフ・コッホ『意識の探求』要約(2)特徴的な概念

○コッホ説における特徴的な概念
・意識
さて、いよいよ本題に入ります。
前述の通り、コッホは意識をある種の記憶保持と、それに基づく問題解決能力として捉えています。質感・クオリアの話は置いておいて、意識を外から見たら、「意識して行動する」ということは、「数秒間何らかの課題に向き合うこと」であろう、とは確かに納得するものです。


・意識本体(仮):意識に相関した脳活動(NCC)
意識的視覚知覚に対応する脳部位の活動を、この本では意識に相関した脳活動(NCC)と呼びます。この本ではNCCの絞り込みを主たる狙いとします。
「そのNCCと、先の定義でいうような意識そのものに対応する脳部位と本当に同一なのか? 意識のうち視覚知覚に関係ないところは分からないのではないか? また逆に、視覚知覚のうち意識と関係ない部分も含んでしまうのではないか?」その疑問はもっともです。しかし、意識と視覚知覚の両方に関係するところは分かるので、目印にするにはかなり役に立つでしょう。


・意識以前1:腹側視覚路
脳には、ざっくりと分けて、意識より前で意識できていない部分と、意識より後で意識できていない部分と、意識の周辺にあって意識しようとすれば意識できる部分と、意識的視覚知覚を直接司る部分(NCC)に分けられます。
このうち、「意識より前で意識できていない部分」には大きく分けて二つあります。物体認識に関わる腹側視覚路と、空間認知や運動に関わる背側視覚路です(なお、視覚系のサブシステムや、非視覚系のものも含めるともっとあります)。
腹側視覚路は、意識的知覚の内容の主要な素材である物体認識をもたらすものであり、重要です。また、腹側視覚路の上位部分は、この本ではNCCの一部として扱われます。


・意識以前2:背側視覚路
背側視覚路は、意識的知覚の内容とは直接は関係ないのですが、非意識的な視覚運動行動を行なうのに必要です。
われわれはしばしば意識していなくても行動できますが、そのためには空間認知が必要になります。逆に言えば、意識とは基本的には関係のないところです。


・意識周辺:意識の周辺部
「意識の周辺にあって意識しようとすれば意識できる部分」を説明するために、コッホは「意識の周辺部」と仮称されるニューロン集団が脳にあるとします。
ここはNCCではありませんが、NCCと接続することで連想が働き、質感・クオリアは周辺部の膨大な情報と結合してある種の記号・ラベルとして機能し、意識は周辺部の情報を容易に扱えるようになります。パソコンやスマホでいうと、何かのゲーム全体に対してアイコンがあれば、アイコンが即そのゲームを意味する、みたいなものでしょうか。


・意識以後:非意識的ホムンクルス
また、「意識より後で意識できていない部分」を説明するために、コッホは「非意識的ホムンクルス」と仮称される部位が脳にあるとします。具体的には意思決定を行うための部位です。
面白いところですが、意思決定は意識せずに行われていることがしばしばあります。つまり、非意識的ホムンクルスNCCそのものではないということです。


前頭前野
人間の大脳は、一番外側の皮質は、大雑把には四つの領域に別れます。そのうち前方に位置するのが前頭葉であり、その前頭葉のさらに前方の部分が前頭前野です。
様々な部位から様々な感覚や運動の信号を受けたり、視覚における物体認識と空間認知を統合したり、意識をもたらしたり(NCCの一部)、意思決定したり(非意識的ホムンクルス)、トップダウン注意という仕組みがあったり(前部帯状皮質)、いろいろあります。
ただ、視覚統合部位とNCCと非意識的ホムンクルスと前部帯状皮質がそれぞれどういう関係にあるかは、この本では特に語られていません。何らかの接続があるのか、そうでないのか、何とも言えないところで、それは少なくともこの本の限界であり、困ったところです(そもそも前頭前野に関しては実験の困難のため仮説上の部位が多すぎるのでしょうがないのですが)。